大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)1208号 決定

被疑者 田中敏夫

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一、本件申立の趣旨は

(一)  東京地方検察庁検察官が昭和四八年一一月二日になした被疑者と申立人の接見につき昭和四八年一一月五日午前一〇時から午後五時までの間に警視庁本部において二〇分間と指定するとの処分を取消す。

(二)  被疑者と申立人の接見につき昭和四八年一一月二日午後三時から六時までの間に警視庁本部において四〇分間と指定する、との裁判を求める。

というのでありその理由の要旨は申立人は被疑者の弁護人となろうとする者として、昭和四八年一一月一日、警視庁麻布警察署において被疑者に二〇分間接見したが、右時間内では短時間のため本件につき十分事情の聴取ができず、現在、勾留理由開示等の手続に関し早急に打ち合わせをする必要があるうえ被疑者の執行猶予取消請求に関し助言をする必要があり、かつ、短時間のため被疑者から弁護人選任届に署名押印させることができなかつたので、さらに弁護人となろうとする者として早急に被疑者と接見する必要があるところ、これを無視して前記のとおり新たな接見の指定をしたのは違法不当な処分というべきであるから、本件申立に及んだというのである。

二、一件記録によれば、申立人は未だ被疑者の弁護人となろうとする者にすぎず、その弁護人でもないこと、また、申立人の主張のとおり、昭和四八年一一月一日に被疑者と二〇分間接見したこと、および申立人の主張のとおり、その四日後である同月五日に新たな接見に関する指定がなされたことが認められる。

ところで、弁護人となろうとする者の被疑者との接見交通権は、被疑者から被疑事件につき事情を聴取することにより、弁護人を受任するか否かを決定し、かつ、被疑者の選任の意思を明確にすることを主たる目的とするものであり、被疑事件その他につき助言をするなど、弁護人としての活動をすることまでを許す趣旨では本来ないものと解されるところ、以上の趣旨にかんがみれば、前記二〇分間の接見がなされた事実を考慮すると、その間に弁護人を受任するかどうかを決定し、かつ弁護人選任届に被疑者が署名押印することは十分可能であつたものと一応認められ(なお弁護人選任届に被線者の署名押印を求めることは看守を介して行なうことができる。)、さらに、前記のようにその四日後である同月五日二〇分間の接見の指定がなされているものであることを考慮すれば、右指定が、弁護人となろうとする者の被疑者との接見交通権を検察官が不当に制限したものということはできない。

よつて本件準抗告の申立は理由がないので、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により棄却することとし、主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例